没後10年 姫田忠義回顧上映
代表作『越後奥三面―山に生かされた日々』デジタルリマスター版を世界初上映
MOTION GALLERYでの支援をはじめ、皆様のご協力により高精細デジタルリマスターが完成します
『越後奥三面 ―山に生かされた日々』(1984年/145分)
1984年優秀映画鑑賞会特薦/1984年日本映画ペンクラブ特別推薦/1984年度日本映画ペンクラブノンシアトリカル部門第1位/1984年キネマ旬報文化映画ベストテン2位/1986年シカゴ国際映画祭ドキュメンタリー部門銀賞
新潟県の北部、山形県との県境にある朝日連峰の懐深くに位置する奥三面。平家の落人伝説をもち、また縄文遺跡も残る歴史の古い山村である。人々は山にとりつき、山の恵みを受けて暮らし続けてきた。その奥三面がダムの湖底に沈む。この映画は、山の自然に見事に対応した奥三面の人々の生活を四季を通じて追い、ダム建設による閉村を前にした人々の想いをつづった長編記録である。
奥三面の人たちにとって、生活の基本は3万haの山地である。その山地をいかに全面的に活用しながら人々が生きてきたか。記録スタッフは、一軒の家と畑を借り、そのことを見つめ続けてきた。
深い雪におおわれる冬、山猟。昭和30年代にカモシカ猟が禁止されるまで、厳しい戒律をもつスノヤマとよばれるカモシカ猟が行われた。現在は、ウサギなどの小動物の猟、そして堅雪の季節には熊狩りが行われる。これらは、冬の間の重要な動物性たんぱく質の供給源である。春、ゼンマイをはじめとする山菜採りが始まる。特にゼンマイ採りは家族総出で働き、戦争とよぶほど忙しい。そして田植え。ここにはすでに慶長2年(1597年)の「ここに田あり」という記録もある。夏はかつてはカノ(焼畑)の季節であった。川ではドォやヤスで、サケ・マス・イワナなどが捕られた。秋、木の実・キノコ採り。山菜とともに長い冬の保存食である。そしてオソや鉄砲による秋の狩り。 記録作業を始めて4年目の冬、初めて、村人たちにダム水没問題を問いかけた。ある村人が言う。「山、山、山……。幾多の恩恵、心の支え……山しかねえな、山の暮らししかねえなあ」。
そしてその冬、村人たちの雪山行に同行させてもらった。長柄の槍で斜面の深い雪をそぎ落としながら登っていった。狩りのためではない、山仕事のためでもない、ただ祖先の使った狩衣装をつけ、祖先がやったようにやってみたいという、いわば祖先への想いにかられた無償の行為であった。